はじまり
人は昔、川の近くに集落を作り、そこに張り出しを作って洗い物や水汲みをした。後に水を堰き止めて水を溜めるようになった。これらの張り出しや水を溜めたもののことを「井戸」と呼んでいた。シリア北東部、新石器時代のテル・セクル・アルアヘイマル遺跡から発見された井戸は約9000年前のもので、浄水目的では最古の例と云われている。 やがて、山の麓に横穴をあけ、地下水を溜めて使うようになった。これにより、人は川から離れて集落を作ることがより容易になった。 さらに、井戸を掘削する技術の向上によって穴を縦に掘れるようになることで、地下水のある所ならどこでも住めるようになり、人々の居住範囲の拡大に資したものと考えられる。
井戸は、戸別に置かれる場合もあるが、高価であるため、集落の中では数戸単位で設置されることが多い。この場合、生活の一部である井戸端は格好の会話の場所となった。また、井戸には水を汲み出して行う大規模な清掃が必要であり、これを井戸替え、井戸浚え(いどさらえ)、晒井戸(さらしいど)などと呼ぶ。井戸替えも専門の業者が行う他、使用者が共同で当たり地域における夏の年中行事として行なわれる。江戸時代、江戸市中では7月7日に行われていた。 水は生活にとって欠かせないものであり、それを汲み上げる井戸は重要視された。日本においては井戸神として弥都波能売神(みづはのめのかみ、水神)などが祀られた。井戸の中に鯉などが放たれていることもある。魚が棲めるということは水が清いということである。この魚を井戸神とみなす地方もあり、井戸の魚はとってはいけないとされる。イモリも井戸を守る「井守」から来ているという説がある。禁忌も多くあり、例えばむやみに井戸を覗き込んではいけないとされた。
井戸は人工物であり、孤立しているから、原則的には生物は棲まない。しかし、地下水中にもわずかに特殊な生物が生息しており、それが井戸から見つかる例はある。イドミミズハゼやイドウズムシはそのような経緯で発見されたものである。
東京都や埼玉県をはじめとした地方自治体では、大地震発生の際にライフラインが絶たれることを想定し、機能する既存の井戸を非常災害用井戸として指定し、非常時の飲料水など生活用水の確保を行っている。これらの井戸では定期的に水質検査を行っており、使用上の問題はないが、無指定の井戸については大腸菌等の細菌や、重金属により汚染されている場合も考えられることから注意が必要である。